国際戦略経営研究学会

会長挨拶


2019-2020年度の国際戦略経営研究学会会長就任のメッセージ

この度国際戦略経営研究学会の会長に2019年-2020年の2年間の任期で選任されました古屋紀人です。国際戦略経営研究学会は2008年1月に設立されて以来12年目を迎えて、その間に諸先生方のご尽力と各大学教育機関のご支援により、各研究活動につきましても過大なる業績を積み重ねてくることができたと確信しております。当学会の過去11年間にわたる各会員の先生方と関連教育機関に対しまして、当学会の発展のために過大なるご協力とご理解を賜りましたことに御礼申し上げます。

しかしながら、日本経済も1990年代初期の高度成長時代を過ぎてから、今後大幅な日本国内における人口減少が進む中で、大学研究機関における研究活動に従事する研究者や高等教育を受ける学生の量と質の低下が危惧されております。文部科学省の学術政策研究所が2019年実施した調査によれば、2006年から2016年の過去10年間に人口100万人当たりの各国の博士号取得者の人数は以下の表-1の通りになっています。

表-1 人口100万人当たりの博士号取得者人数(出所-文部科学省学術研究所-2019)

年度 日 本 米 国 ドイツ フランス 英 国 韓 国 中 国
2006 140 182 299 164 288 184 25
2008 131 205 312 169 286 191 32
2010 131 219 319 174 320 213 35
2012 125 236 333 179 348 244 37
2014 118 253 348 177 353 255 38
2016 118 356 170 360 271 39
10年比較 -15.7% +39% +58.2% +3.7% +25% +47.3% +56%

表-1は、世界の主要国においては、過去10年間で博士号の取得者数が増加しているにもかかわらず、日本の博士号取得者はこの間に15.7%の減少を示しています。特に日本においては、社会科学系と人文科学系分野の研究活動の実態は、欧米諸国と比較しても、まだ十分なレベルに達していないことが指摘されています。このような日本における博士号取得者数の減少は、当学会設立後の11年間の会員数の減少傾向にも表れていることを示しています。更に日本の総人口の減少は、若手研究者の減少に影響していると考えられますが、日本の大学、研究機関、特に企業組織などはポストドックの研究者を積極的に採用して活用しようとしてこなかったことにも起因していると考えられます。その結果、国内に存在する学会間で会員の取り合いが始まっており、今後は会員にとって新しい知見を提供できる学会のみが研究者や学生を引き付けることができると思います。そのために、今後の学会運営にも戦略経営とグローバルな思考が重要であり、当学会も今まで以上に競争優位の戦略を前面に打ち出すことが肝要です。他の国内の学会に先駆けて差別化した研究テーマにも取り組む必要があり、そのうえで多国籍の研究グループの研究者とも深く交流することが必須です。このことにより、海外の研究者からも広く投稿論文も受け入れる体制づくりが必要と考えます。そのためには、特に英文ジャーナルの査読者の質を高める必要があり、日本の帰納的研究手法と欧米の演繹的研究手法をどのように調和させるのかなどの諸課題に挑戦することが大切です。一案としては、英文ジャーナルに関しては、IASMと海外の研究者グループがタイアップすることにより、適任な査読者の選定、査読内容の質の向上などの面で、当学会が新しい取り組みを進めることを期待しています。

一方、過去20年以上にわたり、職務の一環として日本企業と欧米企業のM/Aによる組織統合の実務とそのマネジメント統合に関わる問題に関与してきました。その間の最大の気づきは、大手も含めて日本企業組織の経営者の中に、実際に戦略経営の知見を持って事業経営に携わっている経営者が如何に少ないかを痛感してきたことです。此のことは、日本の大企業の多くや官僚組織は、まだ新卒一括採用で採用されて定年まで同じ組織内に留まる終身雇用型の組織人事制度が主流であり、安定した雇用環境が保証されるために、今までは危機意識を持って仕事に取り組むことが求められてこなかったと考えます。一部の日系ベンチャー企業や非日系企業のように、異業種や同業種間の厳しい競争の現実に直面する機会が極めて少なかったことに起因していると考えられます。

特に昨今のIotの時代を迎えて、多くの企業が同業種や異業種の壁を越えて自らの潜在能力を高める努力が求められる時代が到来しているのに、まだ日本はその本格的な取り組みから遅れている状態です。現状は系列組織内の企業同士の談合的取引に終始しており、垂直統合型組織形態を維持して、グループ内の狭いサイロ内での取引が中心です。日本の大企業の多くが、過去の『成功のわな』に落ちかけた状態で、お互いが身内同士間の相互依存の状態です。同業種間や異業種間の企業が、国の国家戦略として企業や行政の壁を越えて基礎研究の分野でお互いに協力し合い、高度な研究レベルまでに高めている米国やドイツの政府機関と企業経営者とは比較できないほどの差がついてきているのが現状です。一方日本の政界や行政組織も明確な国家戦略を構築することができず、身内間の忖度と談合に右往左往している状態です。

スイスのビジネススクールのIMDは、毎年世界主要国の競争力の総合順位を発表しております。その対象となる変数は 個人でリスクを取る度合いAグローバルの度合いの2つの変数で評価されています。図-1は、IMDが2019年に発表した「世界競争力年鑑」、世界の総合順位の推移を示しています。日本は過ってこの調査で1980年代には、数年にわたり世界一であったこともありますが、最新の2019年度においては世界のランキングの中で、30位まで落ち込んでおります。特にアジア諸国の中でも、シンガポールと中国(PRC)の伸びが著しく伸びています。欧米諸国でも、米国、ドイツ、スウェーデンなどは上位を占めており、フランスはやや落ち込む傾向にありますが、日本ほどの落ち込みの大きさはありません。IMDのデータのベースとなる2つの変数は、他の研究でも日本の企業や政治の競争力の弱い点として指摘されています。図-1のIMDの世界競争力年鑑のデータの意味することは、過去30年の長きにわたり、日本の政治力や経済力が著しく低下していることを意味しています。バブルの崩壊から既に30年が経過していますが、日本の学界、経済界、政界においても、その質の劣化の度合いはひどく、多くの分野で戦略的思考と戦略の実行が強く求められる背景になっている状態であることは異論の余地はないと思います。

図-1 IMDランキングに見る日本の競争力の順位
(出所-IMD「世界競争力年鑑」世界の総合順位の推移 2019年)

世界の企業別の株の時価総額のランキングを見ても日本企業の落ち込みはひどく、1989年には50位以内に日本企業が32社入っていたにもかかわらず、2018年においては、トヨタ自動車が1社だけが35位にランクされている状態です。このような国家レベルの諸問題を小さな組織である当学会がどの程度改善に貢献できるかは疑問ですが、少なくても当学会の各種のアクティビティを通して、産業界、学界に対して戦略経営思考とグローバル思考の重要性を啓蒙することは可能であると信じています。

当学会は、強みとしての学際的な活動を増やすことにより、産業界に対してもっと戦略経営の重要性を説いて具体的な提案をすることも必要ではないでしょうか。意識レベルの高いビジネスパーソンへの啓蒙活動を通して、産業界からも多くの方々が当学会に参加されることを期待しています。

国際戦略経営研究学会
会長 古屋紀人

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